当店KINKANの名物になった、焼売の中でもっとも王道であり自信作でもある豚クワイ焼売をあらためて紹介しましょう。
レシピ考案のルーツや、想いの断片を集めて。この10年の軌跡を感じ取って頂ければ。
ひと粒に宿る、遠い記憶と手仕事の物語
KINKAN焼売開発をめぐって、最大の目的としたのは
- 本当に自信のある素材のみを使用
- 食品添加物や化学調味料を使用しない
- 家庭料理のごとくシンプルに包む
ということです。
チャーハンへの疑念の回でも記したように、中華料理界の「味の素いれて当然!」の潮流に逆らって
自分はわざわざ入れない、無しでも成立させてみせる、
美味しくした加工品ではなく、自然と美味しくなったシンプルな惣菜、であるべきと考えました。
チョコレート以上の融点の低さが特長の銘柄豚「E-REX(イーレックス)」

メインの特選素材はやはり豚肉!
肉屋や問屋を介さずに県内の養豚家さんから直接仕入れている銘柄豚「E-REX」です。
E-REX の特長は、静岡県立大学の研究でも示された “脂の融点の低さ”。
26.2℃で溶け出すその脂は、一般的な豚脂(31~39℃)よりずっと軽やかで、舌にのせた途端すっとほどけます。これはチョコレートよりも溶けやすいほどです。
くるみのような香りは、オレイン酸含有量 51.4% が生む自然な芳醇さ。
くどさがなく、肉の味が濃く、余韻だけが静かに残るのが魅力です。
だからこそ、味つけは最小限。
塩、きび糖、白胡椒、片栗粉だけ。
素材が語る力を活かしたくて、余計なものは一切入れていません。
この、静岡の大地から生まれる食材の恵みを結晶化するべく、食肉加工センターへ直接出向き塊肉を受け取ります。
自店に戻り、丁寧に下処理を施し、粗挽き肉にし、前夜から用意した地元中心の野菜と合わせひとつひとつ成形してゆきます。仕込み1日で総量約50kg、1,200粒。
一つ一つ丁寧に成形し、急速冷凍、真空包装。一夜にして、出来立ての美味しさを閉じ込めています。
つけダレは、フランスのディジョンマスタードで

そのままでも十分味があり、酢醤油や酢胡椒でも美味しいですが、ポン酢や柚子胡椒もおすすめです。
ちなみにKINKANではフランスのディジョンマスタードにりんご酢を合わせた、柔らかな酸味のソースを添えています。辛味はほとんど無く、脂を中和してくれる清々しい組み合わせです。
あたたかい時はふんわり、冷めれば皮はむちっと、肉はきゅっと締まる。
変わらないのは、素材そのものの力強さ。蒸し立ても、弁当でも、どちらにもそれぞれに良さがある。
冷めても美味しいのは、まぎれもない“本物”の証と信じています。
ルーツとなった中国料理店「鳳舞」との出会いのきっかけは「くるり」がくれた。
そして、KINKANの焼売には静かに語り継がれてきたルーツがあります。
ロックバンド〈くるり〉の「三日月」のプロモーションビデオの舞台となり、京都紫明通にかつて存在した中国料理店「鳳舞」。
そのやわらかな空気感と独特な佇まいを醸す料理の数々に目を奪われ、私の料理人生にとって特別な出会いとなったお店です。
創業者の高華吉さんは、京都の暮らしになじむようにと香りの強いニラやニンニクをあえて使わず、舞妓さんでもするりと食べられるよう、肉も野菜も細やかに手を施し、日本の食卓に寄り添った中華を生み出しました。
その焼売に入っていた「くわい」のシャリッとした食感は、多くの京都人の記憶に残る味だったと聞いています。
将来の矛先に迷ったその時、一筋の光がさした
中華料理の修行を始めた頃。
中華料理といえばホテルの高級レストランか、もしくはカジュアルな町中華かの二択しか認識していなかった頃。
その中間がないなぁとぼんやり思っていた矢先に、くるりが教えてくれた鳳舞は僕にとっては鮮烈な衝撃でした。
独立開業は地元で果たしたい。田舎町掛川に何か文化的で新しい風を吹かせたいと野心を抱いていたその頃、
大人から子供まで幅広い年齢層に届けることができ、日常的にも、特別な日にも、ふらっと立ち寄れる
砂漠の真ん中で人々の喉の渇きを癒す「オアシス」のような店にしたいと考えた時、
「これだーーーー!!!!」と一筋の光のように思えました。
町中華のように親しみに溢れ、日常使いが可能で町に溶け込みながらも、心意気とこだわりに満ちた上質な料理の提供。
これこそが生まれ育った地元掛川へ持ち帰るべき「文化」であると感銘を受けたのです。
ー 街に寄り添い、決して偉ぶらず、品質や志には妥協しない ー
必ずそのポリシーを貫く。そんな思いで開業したのは2015年の春です。
人生の大きなターニングポイントをくれたくるりに感謝を抱き、今日もまじめに、ていねいに、この道を歩いてゆきます。
辛いことばかりでも、玉ねぎが目にしみても、こねる肉の冷たさに泣きそうになっても、どうか優しさに変えて届けたい。
どうぞ、ひと粒ひと粒の中にある、遠い味の記憶と、いまのKINKANの手仕事を感じていただけたら幸いです。





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